徒然なるままに ~ライスペーパー~
(KTV)出野徹之
「あさイチ(NHK)」で、「いま大流行ライスペーパー」という特集を放送していました。今や日本でも大変ポピュラーな食材になったライスペーパー、勿論元々はヴェトナムの食べ物です。様々な食べ方紹介を見ながら、30年前ほど前のホーチミンの風景を思い出しました。
早朝、郊外に出ると、道端に、昔日本のどこの家でもやっていた「洗い張り」のような板が立てかけてあって米粉を水で薄く伸ばした“ライスペーパーの素”が貼り付けられ天日干しにされています。その横を、香草を荷台に山積みしたバイクが街の市場へ向かって駆け抜けていきます。ヴェトナムの朝の風景です。
シンガポール在勤中、ヴェトナムでの取材はないかと機会を伺っていました。
ある日、大阪府のシンガポール事務所で所長と話していると、大阪市天王寺区の会社がホーチミンに事務所を出す事になり女性が着任する、しかも近々、現地で結婚するという、願ってもない“面白そうな”ネタを提供してくれました。
早速ヴィザを取り、初めてのヴェトナムに向かいました。空港でVTRを見せ「何も撮影していない証明」をもらって、くだんの事務所に所長のYさんを訪ねました。30才そこそこのごく普通の女性です。この会社は、東南アジアで電動工具を販売していてタイのバンコクが拠点、そこでも女性スタッフが多く働いていると言います。時は1994年ですよ!今の政権に聞かせてやりたいような話です。
Yさんがセールスに行くと言うので早速同行させてもらいました。と言ってもアオザイ風の衣装にショルダーバッグ、手には数冊のカタログを持っているだけ、ホーチミンの雑踏を我が街の如くスタスタ歩いて行きます。小さな工具屋に入ると「毎度!」という感じで店員とおしゃべり、やってきた地元の人たちとカタログを開いて商談(らしい)をしています。
そこへ、大量のドン(現地通貨)をゴムバンドで縛った包を抱えた男性が現れました。電動カンナを買いに来たと言うのです。早速Yさんと店員が現物を見せ商談成立。聞くところではヴェトナムの人は器用なので、電動工具を買って自分で何でも作ったり修理してしまうのだそうです。中には各種の工具を揃えて大工商売を始める人も居るとか。ヴェトナム人の生活の一端を垣間見ることができました。たくましく街中を歩いてセールスをするYさん、京都大学を卒業後、パリで仕事をしているうちにヴェトナム人社会と知り合い、とうとうホーチミンに来てヴェトナムの男性と結婚する事になったと話してくれました。なんともスケールの大きい話で、東南アジアというエリアを仕事場にしている私にとっても大変刺激になる取材でした。
因みに、天日干しで“製品”となったライスペーパーは香草と同じように、バイクの荷台に詰まれ市場に向かいます。私たちが毎日食べるお米と同じようにヴェトナムの人たちにとってライスペーパーは日常生活に欠かせないポピュラーな食材です。「いま大流行」なんて特集を聞いたらビックリするかも知れませんね。